Makers Interview 02

宇奈手 正志

Title

伝統を未来へと
接続させる、
新しい関わり方

「Makers Village」のメンバーを紹介するインタビューシリーズ。第2回は若き宮殿師(くうでんし)、ウナテ工房二代目の宇奈手正志さんです。時代の変遷やパンデミックを背景に、伝統技の継承と革新を重ねてきた宇奈手さんにとっての家具製作に携わる想い、宮殿師の現在地について訊ねました。

Makers Interview 02宇奈手 正志ウナテ工房 宮殿師

1990 年、京都府生まれ。神社仏閣の中枢を担う宮殿師として活躍する、ウナテ工房の初代である父・宇奈手正博の背中を見て育つ。高校卒業後は家業に入社し、古の技術、経験、知恵に新たな発想を加え、さまざまな御宮殿、御須弥壇などの製造・修復を担っている。

浄土真宗本願寺派 築地本願寺
浄土宗総本山知恩院
ロサンゼルスやハワイなど海外の別院寺院

Web サイト : https://kuuden-shi.jp/
Instagram : @unate_koubou

宮殿師として生きる

本願寺派の本山・西本願寺を中心に全国の寺院の造設、修復を数多く手掛けてきた宮殿師の宇奈手さん。宮殿師とは、宮大工から分化した専門職であり、寺院の御本尊を安置する宮殿や須弥壇(しゅみだん)、神輿(みこし)をはじめ仏様に関わる一切を造形し、修復する職人のこと。2センチメートル角、長さ2メートル強の棒「杖」と、屋根などの曲線や、材が重なり合う箇所の角度を書き込んだ「型」のみを用いて、図面なしで作業を行う。代々口伝で受け継がれてきた宮殿師の手技が、古来から日本の信仰文化を下支えしてきたと言っても過言ではない。

「初代である父親の仕事を身近で見て育ちましたが、何をしているのかは長い間知りませんでした。ただ、ものをつくることへの興味は無意識のうちに芽生えましたし、親から何を言われるでもなく『自分も二代目を継ぐんやろうな』と自然と腹は決まっていましたね」

「鉋(かんな)をまっすぐに掛けられるようになって半人前、道具を自分でつくれるようになれば一人前」と形容される宮殿師の世界。一人前になるまでは現場に赴くことも叶わず、工房にこもっての刃物研ぎが課される。「なめらかな線状を彫れるようになるまでが大変だった」と振り返る宇奈手さんは、入門してから17年経った今も自身を「若手」と称する。

そうした長く厳しい修行が待ち受けることは重々承知していた。現在も第一線で活躍する、唯一、本家の宮殿師に学んだ初代・正博さんの下で修行をはじめたのは、宇奈手さんが高校を卒業してすぐのこと。高校時代にはラグビーの日本代表候補として頭角を現わし周囲に期待されたが、「家業を継ぐことに迷いはなかったですね。タックルで身体が痛くなるんで(苦笑)」とラグビーに未練はない。

自分の本分を手放さずに

「Makers Village」の一員として、別注家具製作所と宇奈手さんとの関係が始まったのは世界的なパンデミックが終息した2023年の頃。

そもそも日本の匠の技は世界的に注目されているが、需要は減少傾向にある。宮殿師も例外ではない。数多くの神社仏閣が日本全国にあるが、空き家のように機能していないものも多い。仕事量は初代の修行時代に比べて半分程度になっていた。比例するように売上も減少。コロナウイルスが猛威を振るったことで拍車がかかり、それを機にウナテ工房は宮殿師の技を活かした日用の道具や木工玩具などの製作・自社販売を始めた。別注家具製作所と「Makers Village」との出会いはその矢先のことだった。

「共通の知り合いを通じてお声がけいただいたんですが、迷いはなかったですね。常々どんな仕事も断らんとこうと思っているんです。はじめは『忙しいときには声をかけてください』とお伝えしていましたが、なんだかんだずっと忙しそうなので、ウナテ工房は父親に任せて、自分は別注(家具製作所)の工場で作業している時間が多いです。仕事の空白期間をつくらずに済むんはありがたいですね。宮殿師の仕事が立て込むタイミングには優先して構わないと言ってもらっているので気も楽です」

どうつくるか? どう学ぶか?

数ミリ単位で木材を加工する家具製作と、宮殿師の仕事とのギャップは、宇奈手さんにとって大したハードルには感じられなかったそうだ。

一尺五厘「強」などおおよそで測る尺貫法や、余白をもたせて最終的に帳尻を合わせる宮殿師的な作法の違いもすべて「手を動かしながら、なんとかなるだろうと思った」。現在、「Makers Village」では主に家具製品の組み立てと仕上げを担う。別注家具製作所の職人が手がけた半製品を受け取り、そこから完成品にするまでの一連の作業だ。

「最初は指導してくれる方に手取り足取り教えていただいて、ある程度できるようになったら任せてもらう感じで今に至りますね。未知の世界だけど、どうにかなるだろうと。図面がない代わりに、思い描いた形を大体具現化できるのが宮殿師ですから」

「Makers Village」には、宇奈手さんのように、家具づくり未経験の職人に向けた基礎的なマニュアルが用意されている。マニュアルでまかなえない判断が委ねられる現場作業に関しては、都度プロジェクトメンバーに相談し、一つひとつの作業を習得する体制も整っている。ともに働く製造部メンバーの大半は20〜30代。指南役の職人以外にも、「作業中に話が盛り上がりすぎて、たまに注意される(笑)」間柄になった同世代の職人に学ぶこともあるという。

「半ば中の人、半ば外の人って感じだから気軽に話せてもらえるんかなと。第三者的だからこそ、相談されたり意見聞きできたりすることもある。自分としてもその立場が楽ですし、ひとり仕事をしている人は合うんじゃないかなと」

新しきを恐れない

宇奈手さんが「Makers Village」に加盟してからまもなく2年が経つ。これまでにはない新たな製作環境に飛び込んだことで、宮殿師に生かせる新たな気づきも得た。

「別注ではじめて使った手持ちの機械は、今後ウチの工房でも導入できるんちゃうかなとか考えていますね。たとえば彫り込みの作業にトリマーを使うとか。宮殿師は手仕事が基本ですが、父親が工房を立ち上げたときに機械も導入したんです。手業には手業の良さがあるし、機械にも機械の良さがあるということで。精度が良いですからね、機械のほうが。その流れを汲んで、自分の代でも良くしていけることは積極的に取り入れていければと思っています」

伝統とは革新を続けること。変わることを恐れずに自分の本分をまっとうする。一方で、これまで宮殿師として培ってきた技の研鑽と、ものづくりへのこだわりは譲らない。「Makers Village」で関わる製造部メンバーたちも、その仕事ぶりに厚い信頼を寄せている。

「他の人よりも仕事が細かいと言われますね。きれいに仕上げることばかり考えているんで、それはもう自分に染みついているというか、宮殿師の基本的な心構え。言ってしまえば自己満足ですが、自分が美しいと思える仕事をやりたいんです。それは宮殿師の仕事も、別注の仕事も同じです」

どんな変わり種のプロジェクトも断らず、同じ熱量を持って好奇心旺盛に取り組む宇奈手さん。「Makers Village」という場で、今日も悠久の歴史を経て洗練されたものづくりの智慧を、現代のものづくりに接続させ、新しいかたちで伝統の技を後世に繋いでいる。