Makers Interview 03

原規人

Title

ヴィンテージ家具
修復師への
憧れをかたちに

「Makers Village」のメンバーを紹介するインタビューシリーズ。第3回はヴィンテージ家具の修復、販売準備中の原規人さんです。長年抱いてきた夢——歴史ある家具を手入れし、次の持ち主へと受け渡す——の実現に向けて、本プロジェクトとの二馬力で活動するに至った経緯、思いの丈を伺いました。

Makers Interview 03原規人graywood studio 代表

1976年、愛媛県生まれ。大学卒業後、イタリア・フィレンツェに旅立ち、ヴィンテージ家具の修復技術を学ぶ。帰国後、別注家具製作所に入社し、2025年に独立。ヴィンテージ家具の修復と販売、造作家具製作の屋号として、graywood studioを立ち上げる。由来は自身が好きな音楽レーベル、Brownswood Recordingsから。

単身、フィレンツェへ

4年制の文系大学を卒業すると同時に、ヴィンテージ家具修復の本場イタリア・フィレンツェへ旅立った若き原さん。「古いものが好き」「いつか自分の手でものをつくりたい」と漠然と抱いていた思いに決着をつけ、「勉強するなら今しかない」と人生の舵を大きく切った。

「家具修復を学ぶなら『とにかく外国やろ!』とその当時は思い込んどって、見切り発車でイタリアに飛びました。当ては何もありませんでしたが、現地で暮らすうちに何かのきっかけが見つかるやろうと信じて。今思えば、なかなか青臭いことをしましたね(笑)」

現地の語学学校に通うかたわら、街中の修復工房に飛び込み修行を申し入れる日々。そうこうするうちに、ある親方から国立の職業訓練校の存在を教えてもらう。同校へ打診すると、運良く入学試験がまもなくあるという。試験は無事合格。原さんの修復士人生は想像もしない流れで始まった。

「しばらくの間、半日は訓練校で授業を受けて、残りの半日は紹介された親方の下で修行する生活を送っていました。入学試験は誰でもパスできる簡単な内容やったらしいのですが、『人生ってこんなにうまいこといくもんなんやなあ』なんて思っていましたね」

3年ほど現地で研鑽を積んだのちに帰国。想定外の帰国ではあったが、引き続き家具に携われる環境を求めて、かつて大学時代を過ごした京都にある別注家具製作所に入社した。

最前線の環境で働きながら学ぶ

フィレンツェで原さんが学んだ「美術品」に相当するヴィンテージ家具の修復はその性質上、十二分に余裕をもった作業時間が与えられ、修復を進めるごとに写真で記録することが必須だった。しかし同じ家具に関わる仕事でも、修復と製造では、しきたりも進め方も異なる。原さんは別注家具製作所に入社したことで、新たなものづくりのスタンダードを身につけることになった。

「ものづくりの考え方の違いに最初は驚きました。真逆とまでは言いませんが、勝手が随分と違うんやなと。納期ありきで仕事を進めること、図面通りに精密にきっちりと仕上げること。それから当然のように最先端の材木加工機材や設備が整っていたことにも面食らいましたわ。隣接しているものづくりにもかかわらず、こうも違うんやなあと」

ものづくりの喜びも夢も、生活も手放さない

先端加工技術の習得をはじめ、家具製造にまつわる知見を別注家具製作所で培った原さん。20年間の在籍中には多くの大型プロジェクトを任され、ものをつくる達成感を日々感じていた。

その一方で「いつかは独立したい」という気持ちも芽生えていた。この世界に飛び込むきっかけとなった、ヴィンテージ家具の修復と販売を暮らしの中心に据えたワークスタイルはできないだろうか。その後押しになったのが、在籍中に立ち上がった「Makers Village」だった。

「若い頃とは違って家族もいますし、先立つものがなければ踏み切れません。長らくこの業界にいて、自分のやりたいこと一本で安定した生計を立てられるほど甘くはないともわかっていました。そうした不安が『Makers Village』に加盟することで払拭されるかもしれないと知って、ようやく自分の工房をもつ決意が固まったんです」

退職によって会社や人との縁を断たれる場合もあるが、別注家具製作所の場合は、職人が独立し、「Makers Village」の一員として新たな関わり方に移行することを歓迎している。長年ともに働いた同志であればなおのことだ。

「自分の得手不得手を理解している方々からの発注ということもあって協業しやすいですね。僕の場合は、在籍中から変わらず風変わりな製作をリクエストされることが多いです。過去には、巨大な地球儀型のミーティングルームや船型の大きなミーティングデスクをつくりました。大きく括ればCADに関わる業務をよく回してもらいます。へんてこな角度を出すことにすごく関心があって、細々とした寸法を出す作業も好きなんです。ずっとこの作業でもいいくらいで、とにかく細部にこだわりますね。結果的にそれが家具全体のクオリティを引き上げるような気がしています」

腕ある職人が集う、ゆるやかなコミュニティ

作業内容によっては京都の本社工場へ足を運ぶが、CAD などのデスク作業は、滋賀にある自身の工房で行う。本業とバランスを見ながら「Makers Village」から請け負うプロジェクト数や内容を調整できるため、「両者にとって良いコラボレーションが探りやすい」と原さん。

独立して 1 年が経った今、仕事の割合は、別注家具製作所からの発注が全体の 3 分の 2 以上を占める。件数に換算すれば月 2,3 件ほど。誰にでもできる仕事ではなく、原さんのスキルを見込んだプロジェクトが依頼される分、「ものをつくる喜びがかならずある」と言う。

「僕にとって『Makers Village』はひとつのコミュニティのような感覚ですね。ビジネスライクに仕事をするためだけでなく、各々専門的な技術をもって視座高く活動する職人同士がつながる場所でもある。ふつうに仕事をしていれば、宇奈手さんのような宮殿師にはまず出会わないじゃないですか」

ひとりで黙々と仕事に集中できることは独立のメリットだが、裏を返せば誰かとたわいもないことを話したり相談したりする機会は少なくなる。原さんは「『Makers Village』は別注の職人と協力パートナーの職人、どちらの視点と手仕事に刺激をもらえる。そのいいところ取りと言いますか」と続ける。

「一緒に作業をする間に、わざわざ時間をとって話すほどではないけれども、ちょっと意見を聞いてみたり、相談したりすることができる。このささやかなやりとりで問題の突破口を見出せることもよくありますね」

良い家具は世の中にたくさんある。だからこそ既にある家具を修復し、次の持ち主へと送り届けることが自分にとっての領分。穏やかな笑顔で話す原さんにとって「Makers Village」は、自分の本分を果たすための下支えをしてくれる場所なのだ。