Makers Interview 01

木下 太朗

Title

職人が日常に
溶け込む社会に

「Makers Village」のメンバーを紹介するインタビューシリーズ。第1回は京都でオリジナルのオーダー家具をつくるシルエット家具製作所の木下太朗さんです。有機的な美しい曲線が特徴的な無垢材家具を、実直につくり続ける木下さん。日常に溶け込む家具を目指す実直なものづくりには、造作家具の製作で得たスキルと職人への想いが込められていました。

Makers Interview 01木下 太朗silhouette家具製作所 代表

1980年、大分県別府市生まれ、京都育ち。アンティーク家具の修理、無垢材家具の製造を経て、別注家具製作所に入社。2023年に独立し、オリジナル無垢材家具の製作工房・silhouette家具製作所を営んでいる。小中高までチェロの演奏を習い、大学には長距離ランナーとしてスポーツ推薦入学するなど、多方面の経歴の持ち主でもある。

Web サイト : https://silhouette-kagu.com/
Instagram : @silhouette_kagu

「工房」の響きがかっこよかったから

母親がピアノ講師、父親が木彫作家という芸術一家で育った木下さん。自身も小中高の7年間でチェロの演奏を続けていたが、大学には長距離ランナーとしてスポーツ推薦入学した。学生時代の経歴だけでも異色だが、大学卒業後はバイオリン製作学校に進学し、東京都内でイギリスアンティーク家具の修理業の職人としても勤務することに。学生でありながら、なんともユニークなキャリアだ。

「陸上を引退して、楽器を演奏して食べていくことも無理だから、楽器をつくるほうをやってみようかなという感じでした。バイオリン職人になろうと思ったけど、とにかく細かい仕事の世界が自分の性に合わなくて。たまたま道を通りかかったときに見つけた『工房スタッフ募集』の張り紙をきっかけに、“工房”の響きのかっこよさからアンティーク家具の修理を始めることになるという(笑)。家具修理の世界のカジュアルなノリは僕に合っていて、家具に触れていくなかで自分でもイチからつくりたい気持ちが芽生えてきたんですね」

家具職人の道を志し、職業訓練校に通うようになってからは神奈川県の無垢材家具の製作会社に勤めた。その後、育った京都に戻るタイミングで造作家具の世界へ。複数の会社で経験を積むことになるが、そのキャリアの中には別注家具製作所も含まれていた。言い換えると、木下さんは別注家具製作所の家具職人だった。

「別注家具製作所に在籍していたのは半年くらいですね。辞めた理由は、新しいことにチャレンジできそうな会社を見つけたから。単純にそのタイミングが重なっただけなんです。それがなかったらたぶん、ずっと別注家具製作所に残っていたと思います」

造作家具でスピード感を鍛える

自分の欲求に正直な木下さんは2023年5月に独立し、シルエット家具製作所を立ち上げた。シンプルな無垢材に美しい曲線のデザインを取り入れて、日常に溶け込む家具づくりに取り組んでいる。

「僕がキレイだと思う形をシンプルに表現しているだけであって、屋号はノープランなんですよ。光と影、白と黒といった対比が好きだから、『シルエットでええんちゃう』というノリですね。無垢材は“育てる”という感覚の素材だから、つくって何年後かにいい感じの味が出てきます。お客さんは一般の方とインテリアコーディネーターの方が多いです。その方たちが求める用途と僕のどこに期待を込めて依頼してくれたのか。その理由に準じて、デザインと実用性を考えています」

自分がいいと思うものをつくり続けていくためには資金が必要だ。別注家具製作所の元同僚・先輩とは、退職してからも連絡を取り合う仲にある。自然な流れで、古巣の造作家具製作をサポートすることになった。

「別注家具製作所のみなさんはいろいろと気にかけてくれて。毎月お仕事をいただいているので経済的に安定しますし、自分の力が必要とされていることにやりがいも実感しています。こうやってバックアップしてくれる会社の存在はすごく心強いです。本当の意味での感謝というか、彼らのクオリティに付いていくために、自分の技術も考え方も磨いていかないと。僕が社員だった頃、『下地が美しかったら仕上がりも美しくなるんや』と先輩に言われたことがあって、その言葉はいまも大切にしていますね」

無垢材と造作、どちらの家具製作にも取り組んでいくことで、それぞれの良さに気付いた。物事をプラスに捉えようとする性格の木下さんは、「何にでも良い面がかならずあるんですよ」と続ける。

「造作って制約があるわけですよ。いかに手数を少なくやるかを考えながらつくる。一方、僕のシルエット家具では自分の感性に集中しながらデザインするから、どこか籠った気持ちになってしまうことがあって。造作家具をつくっていると、手を動かしながらいろいろなことを思いつきやすいんです。理屈で逆算して考えていく家具づくりから、無垢材の製作にはないスピード感を鍛えられている実感がありますね。これは、作家的なつくり方だけでは得られないものなんですよ」

職人にスポットライトが当たるように

別注家具製作所の協力パートナーの一人だった木下さん。仕事の安定供給という意味では、古巣との関わり方を変える必要はなかったように思える。なぜ「Makers Village」に加盟したのだろうか。

「職人のステータスを高めるという想いに一番共感しました。デザイナーが描いたイメージに対して、それを具現化するための設計図を描いて製作するのは職人の仕事なんです。そう考えると、職人のウエイトって大きいんですけど、僕らはそれを当たり前にやっている世界なんですよね。独立してからいろいろな方と話してみて、職人のすごさが浸透しないというジレンマを感じていて」

自分の名前が立ち、その人の作品が注目されるという状況にならないと、世の中からアーティストとしての評価を受けにくい。さらに、造作家具は限られた空間のためのものだから、一般の家具と比べて製作者の存在すら知られないこともある。

「造作家具の職人に、もっとスポットライトが当たっていいはず。職人は、深く考えながら複雑なデザインをかたちにしているのだから。僕はそこがうまく伝わっていないことが不満だったので、デザインも製作も自分でやろうって決めました。「職人ってすごいねんで」って世の中に伝えたいですし、職人のみなさんにも、家具をつくれるということがものすごい武器なんだって誇りに思ってほしいです」

掲げるコンセプトに共感してプロジェクトに参加することは、自分自身のものづくりを前に進めるためのきっかけになるかもしれない。同じ想いをもった職人との出会いも楽しみにしている。

「独立した職人って、自分を晒して言い訳できない環境に自ら進んでいるわけです。僕は自分自身のものづくりに対して、どんな印象を持たれてもいい。僕と同じようにそれをよしとする人にこそ、『Makers Village』は合っていると思いますね。職人の門戸が広がっていく可能性のあるプロジェクトに参加できていることがうれしいです」